はじめに
50年代後半から60年代初頭にかけ大ヒットを連発していたニール・セダカ(Neil Sedaka)だが、64年にビートルズが米国に大旋風を巻き起こしてからはヒットから遠ざかっていた。
売れなくなってからのニールはそれまでと変わりなく曲作りに励み、厳しい米国業界の掟に従い新しいスターの前座やドサ周りの演奏活動を地道に続けていた。
英国経由で難産の末米国でも復活の大ヒット
74年、自分の売れなくなった経験を元に作った曲が大ヒットし、1975年2月1日全米第1位を獲得した。それがこの「雨に微笑を(Laughter In The Rain)」である。
米国盤ジャケット
この曲はメロディの素晴らしさもさることながら、心と心が通じ合う瞬間をさりげない表現で散りばめた、どこか日本的な感覚が漂う歌詞にも魅力が溢れている。
突然の雨に傘もないまま雨宿り、身体は凍えるほどなのに、彼女の手の暖かさがあれば笑い声も洩れてくる。・・・若い歌手ではなく酸いも甘いも噛み分けた当時35歳のNeilが歌ったからこそ醸し出された味が格別である。
この曲は元々74年英国Polydor発売のオリジナルアルバム「Laughter In The Rain」(英国では20位まで上昇)に収録されていたものである。
米国でのアルバム発売が出来なくなって久しいNeilが英国経由で、やっとの思いで久しぶりのアルバム「Sedaka’s Back」発売にこぎつけた。
そしてその中からシングルカットした曲が大ヒットするという最高の結果を勝ち取った。この経緯の詳細は別項参照。
そしてついに1974年10月12日ビルボード誌にElton Johnの賛辞と共に1ページの全面広告が掲載された。
『Rocket Recordsは自信を持ってNeil Sedakaのニュー・シングルLaughter In The Rainをお届けします。Sedaka’s Back!』
米国で過去の人となったニール・セダカを支えてくれた英国に移住して活動継続
60年代前半に一世を風靡したニールセダカもビートルズ旋風には吹き飛ばされた。
1964年「抱きしめたい」を引っさげてのアメリカ上陸で、アメリカン・ポップスの世界も様変わりしてしまう。スィートなセダカ的メロディは、一昔前といった扱いを受けてしまう。
そんな時期でも、彼は歌を書くことを、決して辞めたりはしなかった。驚くべきことに「不遇な時代」でも彼のつくる歌は確実に進化していた。
1960~1975頃のデモ・レコーディング集がCDアルバム「Let The Good Times In」として2005年オーストラリア発売されて楽しめるようになった。
「不遇の時代」に作られた売り込みのために作ったもので、そのクオリティの高さは感動モノである。
デモ集とはいえソロアルバムといってもおかしくないくらいの出来栄えである。
この中のいくつかは1968年英国発売された「Working on a Groovy Thing (Sounds of Sedaka)」にも収録されている。
代表例をいくつか紹介する・・・
不遇の時代に売り込みのために作られた作品のクオリティの高さ
Cellophane Disguise – 1969Summer Symphony – 1969Rosemary Blue
この時期5thディメンションなどに曲を提供することで何とか面目は保っていたが、歌手として活動する機会は減りつつあった。
71年に「Emergence(ニール・セダカ・ナウ)」をリリースするが、これは英国のみの発売だったうえに売れず、ジリ貧状態となったNeilは高校時代から一緒に行動してきたグリーンフィールドとの活動に終止符を打ち、新しくフィル・コディ(Philip Cody)との活動を開始する。
このとき代理人だったディック・フォックスが英国に行って空気を変えてみることをアドバイスした。Neilは家族を連れて移住し、活動を開始した。
英国でNeilを待っていたのはロイヤル・アルバート・ホールでのコンサートだった。
ここで好意的な反応を獲得してマネージャーのハーヴェイ・リストバーグがホットレッグス(後に10ccと改名)という新進グループと共に何曲かをレコーディングするよう進言する。
そこでNeilは彼らと共にアルバム「Solitaire」(72年)を製作し、ここからシングルカットされた「ビューティフル・ユー」が英国43位、
続く「ザッツ・ホエン・ザ・ミュージック・テイクス・ミー」も英国18位と復活の胎動が始まった。
72年発売 Solitaire 英国RCA
Neilをサポートした10ccはこのカップリングに手応えを感じていたNeil側の要請で、もう一度タッグを組むことを決める。
その結果出来上がったアルバムが下記の「The Tra La Days Are Over」で、ここからシングルカットされた「Standing On The Inside」
と「Our Last Song Together」(グリーン・フィールドとの総決算)が共に全英Top30に入り一応の成功をみたものの、米国ではリリースされなかった。
聞かされていなかったNeilはこれに激怒し、次の作品は10ccと別れてロサンゼルスで製作することを決める。
こうしてNeilは1974年、その思いの通りアルバム「Laughter In The Rain」をロサンゼルスで製作する。
録音場所をハリウッドのClover Recording Studioに移し、西海岸の名うてのミュージシャンを起用して録音された。プロデューサーはNeilとRobert Appere。
ところがやはり米国でのリリースはなく、英国でシングルカットされたタイトル曲が最高位15位というこれまでと似たような結果に終わる。
しかしNeilはこれを評価できる成果だと喜んで奥さんのレーバと二人でロンドンのアパートを舞台に祝賀パーティを開く。
ここにElton Johnと彼のマネージャーだったジョン・レイドが姿を見せたことから、事態は急変することになる。
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英国発売のアルバム3枚から勝負
73年「The Tra La Days Are Over(ピース・アンド・ラブ)」 英国MGM
74年英国Polydorのアルバム「Laughter In The Rain」ジャケット
これ幸いとNeilはElton John達にこれまでの経緯を話し、どうしても米国でリリースしたい、できればElton Johnのレーベルである「Rocket」の力を借りたいと説得を始めると、Elton Johnはこれに同意し、後日コロラドにあったElton Johnの自宅で話し合いの場を持つことが決まる。
そして10ccと組んでリリースした上記2枚のアルバムから新しく編集した「セダカズ・バック(Sedaka’s Back)」というアルバムを作り、やっと念願の米国発売が実現することになった。
74年発売 Sedaka’s Back米国Rocket(23位)
このアルバムに収録された16曲を以下に列記する。
これらは全て上で紹介した英国発売のオリジナルアルバム3枚から寄せ集めて編集したものである。元のオリジナルアルバムとの関係を○で囲んだ数字で表示しておく。
①Solitaire、②The Tra La Days Are Over、③Laughter In The Rain
1. Standing On The Inside ー ②
2. That’s When The Music Takes Me ー ①
3. Laughter In The Rain ー ③
4. Sad Eyes ー ③
5. Solitaire ー ①
6. Little Brother ー ②
7. Love Will Keep Us Together ー ②
8. The Immigrant ー ③
9. The Way I Am ー ③
10. The Other Side Of Me ー ②
11. A Little Lovin’ ー ③
12. Our Last Song Together ー ②
Bonus
13. For The Good Of The Cause ー ③
14. Endlessly ー ③
15. Love Ain’t An Easy Thing ー ③
16. Alone In New York In The Rain ー ②
Neilはこのプロジェクトが失敗しないようにRocketレコードを配給していたMCAレコードに自ら赴き、ここで重役に「宜しく頼む」と頭を下げ、彼なりに万全を期しただけでなく、英国で売れた「雨に微笑を」のシングル・リリースも決め、これを実行に移している。
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満を持しての「雨に微笑を」米国発売で凱旋
ピアノのイントロ、Neilの優しい歌声、美しいストリングス、ブリッジのサックス・ソロ、Phil Codyの歌詞もシンプルながら素敵だ。
日本においてもJTのキャスター・マイルドなど多くのCMに繰り返し使われて親しまれている。
日本発売盤ジャケット
Neil Sedaka(ニール・セダカ)念願の米国凱旋
1976年8月27日放送のMidnight Special
カバーはそれほど多くないが、2つだけ紹介する。
Earl Klugh(アール・クルー)
まずはジャズ・フュージョンのギターから
もう一つはこれ Ray Conniff Singers
完全復活を証明する連続ヒット
上述したような経緯でようやく米国のリスナーの耳に届くことになった「雨に微笑を」は1974年11月16日にTop40入りし、順調に上昇して1975年2月1日には「悲しき慕情」以来13年ぶりの全米1位返り咲きを果たした。
しかもこれだけでは終わらず、歌にElton Johnがバックコーラスで参加した「バッド・ブラッド(Bad Blood)」は1975年10月11日から3週連続全米1位、キャプテン&テニール(The Captain & Tennille)に提供した「愛ある限り(Love Will Keep Us Together)」は1975年6月21日から4週連続全米1位、グラミー賞最優秀レコード賞受賞とそれまでの不振が嘘のような完全復活を証明した。
Love Will Keep Us Together – The Captain & Tennille
このイントロのピアノリフを聴くと、1979年グラミー賞最優秀楽曲賞を受賞したドゥービー・ブラザーズ(Doobie Brothers)のシングル「ある愚か者の場合(What a Fool Believes)」を彷彿とさせるが、「愛ある限り」にインスパイアされたものという。
What a Fool Believes – Doobie Brothers
Solitaire – Carpenters
1975年9月20日にはCarpentersがカバーしたこの曲が17位まで上昇する
Bad Blood – Neil Sedaka & Elton John (1975年10月11日から3週連続全米1位)
上述のようにElton Johnがバック・コーラスで参加している
さらに1976年には60年代自らの大ヒット曲である「Breaking Up Is Hard To Do(悲しき慕情)」を思いっきりスローに、そしてジャージーにセルフ・カバーしている。(1976年2月21日全米8位)
Breaking Up Is Hard To Do(slow version) 1976年
当時13歳の娘Dara Sedakaと一緒に歌うNeil Sedaka
大好きなパパと歌えて嬉しいというDara Sedakaの初々しさが歌手としての未熟さを帳消しにしている。
Neil & Dara Sedaka 1976年
そのDara Sedakaちゃんが立派に成長した姿をどうぞ。もう立派なシンガーです。
Should’ve Never Let You Go(面影は永遠に、1980年6月28日全米19位)
<歌詞>
Strolling along country roads with my baby
It starts to rain, it begins to pour
Without an umbrella we’re soaked to the skin
I feel a shiver run up my spine
I feel the warmth of her hand in mine
Ooh, I hear laughter in the rain
Walking hand in hand with the one I love
Ooh, how I love the rainy days
And the happy way I feel inside
After a while we run under a tree
I turn to her and she kisses me
There with the beat of the rain on the leaves
Softly she breathes and I close my eyes
Sharing our love under stormy skies
Ooh, I hear laughter in the rain
Walking hand in hand with the one I love
Ooh, how I love the rainy days
And the happy way I feel inside
I feel the warmth of her hand in mine
Ooh, I hear laughter in the rain
Walking hand in hand with the one I love
Ooh, how I love the rainy days
And the happy way I feel inside
Ooh, I hear laughter in the rain
Walking hand in hand with the one I love
Ooh, how I love the rainy days
And the happy way I feel inside
Ooh, I hear laughter in the rain
Walking hand in hand with the one I love
Ooh, how I love the rainy days
And the happy way I feel inside
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