オーティス・レディング |【名盤アルバム】LIVE IN EUROPE

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はじめに

 1967年メンフィス・ソウルの牙城、スタックス・レーベルのR&Bアーティストたちがフランス、イギリス、スウェーデン、デンマーク、オランダの都市をまわるヨーロッパツアーに出た。

 その中から3月21日のパリでのオーティス・レディング(Otis Redding) のライヴを収録したものが歴史的名盤となった『ヨーロッパのオーティス・レディング』である。

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名盤となったアルバム「LIVE IN EUROPE」

飛行機事故

 モンタレーから半年後、飛行機事故で26年という短い一生を終えてしまう不運なソウルマン、オーティス・レディング(Otis Redding)

 ロックイベントとしてのモンタレーに出演し、ストーンズの「Satisfaction」なんかもカバーすることでその力量を見せつけたことからロックファンへのアピールは大いに反響を呼び、普段R&Bなど聴かない連中までをターゲットにした偉大なるソウルマン。

 墜落死した飛行機から死体を引き上げる写真が残っているのだが、モンタレーでの映像を見てわかるように非常に大柄な人で、ノドを真っ赤に膨れ上がらせながら歌うその姿はロックそのものとも云える。

スター歌手総出の絶頂に登場するオーティス・レディング(Otis Redding)

 活動期間が1964年から1967年と短かった割には7枚ものオリジナルアルバムをリリースしていて、やっぱりスタンダードに「Live In Europe」(奇しくも生前最後のオリジナルアルバム)が一番聴きやすい。もちろんロック好きにとって、だが。

 アルバム冒頭からこんなに凄まじいのは当然で、この作品は、1967年に行われたスタックス/ヴォルト・レヴュー (HIt The Road Stax aka Stax / Volt Revue) のごく一部の記録だからだ。

オーティス・レディング (Otis Redding) はじめとして

エディ・フロイド (Eddie Floyd)、
カーラ・トーマス (Carla Thomas)、
サム & デイヴ (Sam & Dave)、
アーサー・コンレイ (Arthur Conley)、
マーキーズ (The Mar-Keys)
そしてブッカー・T & ザ・MG’s (Booker T. & the M.G.’s)

らの参加による、彼らの所属レーベル、スタックス/ヴォルト (Stax / Volt) によるパッケージ・レヴューであり、オーティス・レディング (Otis Redding) はそのトリを勤めた。

 勿論、バック演奏の殆どは同レーベルのハウス・レコーディング・バンドであるブッカー・T & ザ・MG’s (Booker T. & the M.G.’s) が手掛ける。

 彼ら自身の演奏だけでも、グルーヴィーでエキサイトメントな上に、上記のスター・シンガー達が唄うのだ。

 盛り上がらない訳はない。

 その盛り上がりまくった絶頂の瞬間に、真の主役オーティス・レディング (Otis Redding) が登場するのだ。この作品の冒頭の凄まじさというものを、誰しもが納得せざるを得ないに違いない。

ミスター・テレキャスター、スティーヴ・クロッパー。

 オーティスを支えるブッカー・T&ジ・MGズはオルガンに加えてベースもメロディアスなフレーズで表情をつけるうえ、ウェイン・ジャクソンとアンドリュー・ラヴらのホーン・セクションが印象的なリフで華やかに盛り上げる。

 クロッパーのギターはリズム・ワークを担っている。基本的には簡潔なカッティングで通し、そこにブルージーで耳に残るフレーズを織り交ぜ、全体のビートを自在に伸縮させる。とくにイントロやブレイク前後で聞かせるトレブルの利いた鋭くキャッチーなオブリガートは天下一品で、それがアルペジオに挿みこまれた時のオーティスの感情に寄り添うような歌ごころはこの人にしか成しえない。

 ロックのマグマが本格的に噴火し始めた1967年。その潮流を敏感に察してヨーロッパの若者たち向けに仕立てたオーティスのステージングは、80年代にあっても、音にパックされた当時の空気をスリリングに再現してくれるものであった。

 1曲めのRespectからすでにメーターが振り切れている。アレサ・フランクリンがカヴァーしてヒットさせたのとほぼ同時期に、オーティスは「いやぁ、俺の曲じゃなくなっちゃったなぁ」と笑顔でアレサに畏敬の念を示すいっぽうで、ほとんどジョニー・ロットンと言っていいくらいに凄まじくエネルギッシュな歌をロック世代の観客にぶつけていたことになる。アレサがRespectを広く社会に訴える歌に変えたのだとしたら、本家のオーティスはそれを生活感あふれるラヴ・ソングとして携えて海を渡ったのある。

 『ヨーロッパのオーティス・レディング』ではパリの観客の声援やコーラスの賑わいが大きな役割をはたしている。女性客の一人のつぶやきや声援も込みでこのアルバムを記憶している人も多い。それがオルガンの音とあいまってゴスペルを想起させる場面もある。彼らのリアクションを受けて(あるいは念頭において)、オーティスはスタジオ盤以上に節回しを強調させたりしている。

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オーティス・レディング (Otis Redding) というアーティストを知るきっかけ

 殆どの多くの方々はRCサクセション (RC Succession)~忌野清志郎 (Kiyoshiro Imawano) を通じて辿り着いたのではないだろうか。それともブルース・ブラザース (The Blues Brothers) なのだろうか。

 RCサクセション (RC Succession)~忌野清志郎 (Kiyoshiro Imawano) のライヴ・パフォーマンスでの「ガッタガッタガッタ」「愛しあっているかい」の連呼からそのオリジンであるオーティス・レディング (Otis Redding) に導かれたのかもしれない。

 その後にCM曲としても起用され映画『ブルース・ブラザース(The Blues Brothers)』 [ジョン・ランディス (John Landis) 監督作品 1980年発表] にも勿論登場する『お前をはなさない (Can’t Turn You Loose)』が、オーティス の代表曲であると知ったからかもしれない。

 だが、ブルース・ブラザース (The Blues Brothers) が誕生する以前、そしてRCサクセション  が不遇をかこっていた頃は、オーティス・レディング (Otis Redding) というアーティストは、たった一曲のヒット曲でのみ、一般的な音楽ファンに知られていた。

 『ドック・オブ・ザ・ベイ ([Sittin’ On] The Dock Of The Bay)』である。

 1967年のツアーを記録した本作品には『ドック・オブ・ザ・ベイ ([Sittin’ On] The Dock Of The Bay)』はない。と、いうかレコーディング完了後のその3日後に亡くなってしまった訳だから、その曲のライヴ・パフォーマンス自体、行っていないだろう。

 この曲で唄われたカヴァー・ナンバーの『サティスファクション (Satisfaction)』や『デイ・トリッパー (Day Tripper)』だ。

 この二曲に、ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) がカヴァーした『愛しすぎて (I’ve Been Loving You Too Long [To Stop Now])』 と

 彼らが彼への追悼の意を込めて収録した『アイ・ガット・ザ・ブルース (I Got the Blues)』を加えてもいい。

 それぞれのオリジネイターの演奏である、ザ・ローリング・ストーンズ の『サティスファクション ([I Can’t Get No] Satisfaction)』やザ・ビートルズ (The Beatles) の『デイ・トリッパー (Day Tripper)』と聴き比べる。

 すると、オリジネイターの演奏にあるネガティヴな感情がいつのまにか昇華されて、別次元のものをオーティスのヴァージョンに発見出来ないだろうか。

 オーティス・レディング (Otis Redding) 絡みの二曲である、ストーンズの演奏を聴くと、ある特別な感情を引き出し強調して彼らは演奏しているのではないだろうか。

 逆に観れば、死を悼む『アイ・ガット・ザ・ブルース (I Got the Blues)』とオーティスの”白鳥の歌 (Swan Song)”である『ドック・オブ・ザ・ベイ ([Sittin’ On] The Dock Of The Bay)』とが、どこまで遠く離れたものを主題にしているかが解るのではないだろうか。

 どちらがいい悪いという意味ではない。それだけ違うという事なのだ。

 そして、その違いがオーティスなのである。「ふぁ~ふぁふぁふぁふぁ ふぁふぁ~ふぁふぁ」こんなしまりのない、情けない歌詞を、どうやったら、あんなに逞しくも太々しいメッセージ・ソング『ファ・ファ・ファ (Fa-Fa-Fa-Fa-Fa [Sad Song])』にかえられるのだろうか。

 それをしたのが、それが出来たのがオーティス・レディング (Otis Redding) というシンガーなのだ。

収録曲1

リスペクト(RESPECT)

 冒頭の「Respect」からして勢いアリアリのホーンセクションともうこれ以上はないってくらいのオーティスの歌。ベースラインが最高。ここでのベーシストはダック・ダン

お前をはなさない(CAN’T TURN YOU LOOSE)

 この曲もベースが凄い、ドラムとホーンも本気出してきた感じ

愛しすぎて(I’VE BEEN LOVING YOU TOO LONG (TO STOP NOW))

 何かを語る必要があるとは思えないくらいエモーショナルで魂を感じる曲。

 ジャニスが男だったらこういうの歌えたかも。ここで本気を見せるのがギターのスティーヴ・クロッパー 。 ただアルペジオしてるだけなのに

マイ・ガール(MY GIRL)

 クロッパーのカッティングもかっこいい

シェイク(SHAKE)

 例によって「Gotta gotta gota it got it…」みたいなのがわんさか出てくるなど、実にノリノリ。ホーンが曲を引っ張っていく感じ

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収録曲2

サティスファクション(SATISFACTION)

 ローリング・ストーンズもオーティスにかかればこんな風に。スピード感溢れる熱い演奏

ファ・ファ・ファ(FA-FA-FA-FA-FA(SAD SONG))

 観客との掛け合いが、当時のステージの様子を想像させる。一緒になって盛り上がって、素晴らしいステージ

 ホーン・セクションが強力で、重めに粘りながら転がるリズムに乗ったヴォーカルも、哀歓入り混じったオーティス節の真骨頂。そして、彼と客席が交互に歌いあうコーラスの微笑ましく楽天的で楽園的な美しさ。

ジーズ・アームズ・オブ・マイン(THESE ARMS OF MINE)

 またしてもクロッパーのアルペジオが炸裂。オルガンの音が控え目だけどまた効果的

デイ・トリッパー(DAY TRIPPER)

 走るベースとオルガン、ホーンのキメ!とんでもなくかっこいいアレンジ

トライ・ア・リトル・テンダネス(TRY A LITTLE TENDERNESS)

 素晴らしい曲にオーティスの歌声で文句のつけようがない。どの楽器も邪魔にも嫌味にもなってない演奏で、徐々に盛り上げていって、最後の爆発はもう言葉を失う

 アルバムを締めくくるTry A Little Tendernessで観客と一体になって描き出す、あまりにせつなくロマンティックな光景。途中から加わるドラムが刻む鼓動にも似たビートが、これは現実に起こったことなんだと、いつだって悟らせてくれる。

 それを信じて音楽とのかかわりが始まったミュージシャンやリスナーがいて、オーティスの名を叫ぶ歓声があっけなくフェイドアウトするこのエンディングは音楽のもたらす最高に輝かしい瞬間のひとつだと思える。




アルバム「 Live in London and Paris」2008年

 デジパック仕様で、ロンドン公演7曲、パリ公演10曲。

 クレジットによると、全編オリジナルのマルチトラック・テープからのリミックス(Mixed from original multi-track tapes)で、単なるリマスターではない。

 実際、音質は、Live in Europe とはまったく別物と言える大変身。痩せて荒っぽい音質だった Live in Europe に比べ分厚い豊かな音に変わった。

 ライナー掲載の文は、本盤のプロデューサーのビル・ベルモント(Bill Belmont)、Ace Records の創設者ロジャー・アームストロング(Roger Armstorang)によるものと、本ツアーの最重要当事者の1人 スティーブ・クロッパーによるツアー回顧の3つ。

 旧盤の Live in Europe との異同だが、Live in Europe はすべてパリ、オランピア劇場公演の音源だった。

 Live in Europe では、FA-FA-FA-FA-FA の前後で、Good to me!と連呼する女性ファンの声が入っていたが、本盤のオランピアのテイクでも同じ声が聞こえたので、オランピアでのテイクと Live in Europe を聴き比べたところ全曲一致。

 ただし、後者では曲間のオーティスのコメントやショー冒頭の仏語でのアナウンスがカットされている。

 同じくベルモントの解説によると、オランピアでのショーの方が曲数が多いのは、パリでは当時のロンドンのような23:00以降の外出禁止令がなかったという形式的理由の他に、レコード化する本命公演だったという理由もあるようだ。

 充分楽しめる「新」オランピア音源だが、仰天したのは、Stax Volt Revue のまさに初日(3月17日)に、フィンズベリー・パークのアストリアで録音されたイギリス音源。

 オーティス、MG’s、Mar-Keys の3者が一体になって火を吹いて突っ走るようなパフォーマンスで、オランピアでの演奏より高速で突っ走っる Respect の凄いこと。オープニングの興奮度も満点。音質も問題なし。

 先に邦訳の出たロブ・ボウマンの「スタックス・レコード物語」には10頁(163頁から)近くにわたりツアーの様子が書かれているが、ホーンセクション、The Mar-Keys のトランペット奏者ウェイン・ジャクソンの談。

「実情を知らない連中は勝手に思っていたんだよ。(略)曲は全部覚えているに違いないって。(略)レコーディングの時は録った順に忘れていくものなんだ。(略)だから、あのツアーの時は山ほど覚えなくちゃならなかった。気合いを入れて、必死にやったよ。着いた日もすぐにリハーサルだった。一睡もしないで。もちろん二日酔いのままね。操縦不能ぎりぎりのところで何とか耐えている船、という感じだな」(165頁)

 同じく同書より、この時の録音についての記述。

「ポリグラム(略)のA&Rフランク・フェンターの勧めで、フィンズベリー・パークのステージを録ることになり、ダウドは大急ぎでポータブル・レコーディング機器を探したが、見つかったのは3トラックのテープレコーターが2台だけだった。彼はリール交換の際の録り漏れがないようにと、2台を両方、片方を5分遅らせて回し、録った3トラックのテープを大急ぎでミキシングした。ダウドが録ったのはフィンズベリー・パークの2ステージと、翌週の21日火曜のパリ、オリンピア劇場の2ステージである。ちなみにパリでは、4トラック・レコーダーを2台入手している。」(166頁)

 彼の曲のホーン・セクションのアレンジはほぼオーティス自身が「こんな風に吹いてくれ」って実際メロディを歌って教えたという。彼の頭の中にはこの歌はこんな音で埋めたらいいっていう音が常にあったと思われる。

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